「ローエングリン」を聴いて出来た絵。ワーグナーのオペラは全般的に重くて長い。イタリアのオペラが底抜けに明るく(全てという訳ではないが)、太陽の光に満ち昼間を連想するのに反して、ワーグナーを映像にしようとするとどうも夜のイメージがつきまとう。だが、この中に壮大なテーマが秘められている。一筋縄ではいかない難解なところに、音楽を聴き終わった後ある種の征服感とでも言おうか、高い山の頂に立ち登頂した気分になってしまう。この「ローエングリン」では、弟殺しの汚名を着せられたエルザを救うために、地上に遣わされた聖杯の白鳥の騎士が彼女と愛し合うようになる。しかし、私の素性や名前を尋ねてはいけないと、あれ程強く念を押したにも関わらずエルザは禁門を発してしまう。「あぁ、あなたはなんてひどい人だ」ローエングリンは打ちひしがれ、人間界に失望して再びいと高き天界へと戻って行く。ワーグナーがこの伝説をオペラ化したいと着想したのは20代。完成を見たのは30代半ば。彼の作品は聖杯伝説に基づいているものが多いので、作品に登場する人物のモデルを私なりにイメージしている。

色々と調べている内に歴史上、実在した人物がかなりいるのでは?と思うようになった。このオペラではゴッドフリートが出てくるが、フランス中世(1060~1100年頃)の時代に十字軍の最高指導者、ゴドフロア・ド・ブイヨンという人がいた。最も優れた騎士として武勲詩の主人公となり、吟遊詩人らに歌われ中世において九代英雄の一人とされている。エルサレムの初代聖墓守護者となったが、この人物を背景にしてワーグナーはオペラを制作したのではないかと勝手に考えている。
ルキノ・ヴィスコンティのDVD2枚組。ワーグナーの我儘ぶりが発揮され、ルートヴィヒが翻弄されていく。ワーグナーが死んだ時、ドイツ国内のピアノ全てに(家庭を含め)黒い布で覆わせ死を悼んだという。国費を城の建設やワーグナーにつぎ込み、家臣に疎まれ、最後はグッデン博士と揉み合いになり湖で命を落とす。彼らを取り巻く人物たちはさぞかし皆、大変な思いをしたことだろう。この作品は未だに人気があり売れているという。
タンホイザーが溺れる女性はヴィーナス。ヨーロッパでは遥か昔、ヴィーナスの象徴は金星だった。マグダラのマリアは金星がシンボルなので、この作品は女性崇拝を表している。いや、この作品に限らずワーグナーは女性賛美の曲が多い。ワーグナーは、イエスとマグダラのマリアの関係を知っていたのかもしれない・・・マグダラのマリアはダ・ヴィンチ・コード以来、イエスの妻として有名になってしまったが、実際のところ聖書にはほんの少しの記述しかない。イエスの死後、ローマ兵から逃れる為ガリア地方(南仏)に子供を連れてきたか、もしくはフランスで子供を産んだと言われている。ベタニアのマリアと同一人物だとか、娼婦ではなかった、カナの婚礼は本当はイエスとマグダラのマリアの結婚式だったなど、いろんな話が流布している。今となっては藪の中だが、あれこれ考えるのは楽しい。

タンホイザーは実在の人物で、13世紀前半の吟遊詩人であり伝説に登場してから有名になった。構想の基礎としたのはこの伝説とヴァルトブルクの歌合戦。官能的な悦楽の世界とキリスト教的禁欲の世界を対照させて、その狭間で苦悩するタンホイザーの姿を通し、愛の根本的問題を追求した作品に仕上げた。禁断の地「ヴェーヌスベルク」に足を踏み入れたタンホイザーは、罪の許しを請う為にローマ法王に願い出るが認められない。しかし一途な愛をタンホイザーに捧げるエリザベートの死によって、タンホイザーの魂は救われる。タンホイザー序曲は何回聴いたことだろう?飽きることがない・・・。それにしても、ワーグナー「偉大なる生涯」のDVDをまだ見ていない。もう少し、安いといいのだけれど・・・。
マグダラのマリアについてはこの本がわかりやすかった。